わたのおはなし
綿の種類
綿は植物学的には、被子植物→双子葉植物→アオイ目→アオイ科のワタ属(ゴシピウム属)に属します。「種(しゅ)」としては、、現在世界中で栽培されている綿花はバルバデンセ、ヒルスツム、アルボレウム、ヘルバケウムの4種に分類されます。それぞれの原産地はペルー(バルバデンセ)、メキシコ(ヒルスツム)、インド(アルボレウム)、イラン(ヘルバケウム)と考えられています。バルバデンセとヒルスツムは新大陸生まれ、アルボレウムとヘルバケウムは旧大陸生まれとなります。
※『地域資源を活かす生活工芸双書 棉』(農文協、2019、10頁)参照。
綿の種類を表す際に和綿、洋綿という言葉が使われることがありますが、日本原産の綿があるわけではありません。戦国時代以降に日本に伝来し、広く栽培されていた綿という意味で和綿と呼ばれているだけです。種としてはインド原産のアルボレウムに属します。洋綿とは明治時代以降に外国から新たに入ってきた綿、すなわち和綿以外のとくにバルバデンセとヒルスツム系の綿を指すことが多いようです。
綿の種類を、植物学的にではなく種子から生える繊維の長さで区分する方法もあります。
- 短繊維綿 13/16インチ未満(20.6㎜未満)
- 中繊維綿 13/16~1インチ(20.6~25.4㎜)
- 中長繊維綿 1-1/32~3/32インチ(26.2~27.8㎜)
- 長繊維綿 1-1/8~1-5/16インチ(28.6~33.3㎜)
- 超長繊維綿 1-3/8インチ以上(34.9㎜以上)
※『なぜ木綿-綿製品の商品知識』(日本綿業振興会、1994、33頁)より
機械紡績においては繊維の長い方が細くて丈夫な糸を紡ぐことができるため、高級綿となります。反対に繊維が太くて短いものは詰綿に適しています。
綿も他の植物と同様にこれまで国内外を問わず、さまざまな品種改良がおこなれてきました。日本でもかつては200種類以上の品種があったとも言われていますが、伝統的なその地域の綿の種子が今日まで伝承されているケースはそれほど多くはないようです。
世界では、現在も品種改良が行われていて遺伝子組み換え綿の栽培も行われています。その一部は食用(植物油)もしくは家畜の飼料用として日本にも輸入されています。ただし、日本ではカルタヘナ法という法律によって遺伝子組み換え綿を栽培することは禁じられています。
以下にアルボレウム、ヒルスツム、バルバデンセについて簡単に紹介します。ヘルバケウムは現在ほとんど栽培されていないらしく、直接目にする機会も栽培の機会もないからです。ちなみに、綿花については世界のおもな生産国は中国、インド、アメリカ、ブラジル、この4カ国でおよそ7割を占めています。
綿の花はほとんどが白色もしくはクリーム色系で、花が咲いた翌日に紅色に変化するタイプが多く、同じ畑で紅白の花をみることができるのはそのためでです。綿花とはその後に子房が膨らみ、成熟した実が裂けて吹き出す繊維を指します。自然界には白色のほかに茶色、緑色の綿花が存在します。茶綿の中にも赤茶色から薄茶色までさまざまなバリエーションがあります。注意しなければならないのは、白綿と色綿を同じ畑で栽培するとすぐに交雑が生じることです。
成熟した実、すなわち蒴果(はじける前の実)の表皮が裂けて、繊維があふれ出てくることを開絮(かいじょ)と言いますが、開絮の順番はおよそアルボレウム→ヒルスツム→バルバデンセとなります。奈良県ではアルボレウムは8月中旬から開絮がはじまり、ヒルスツムは8月下旬、バルバデンセは11月中旬になってようやく開絮がはじまることもあります。
綿の種類については、前掲書『地域資源を活かす生活工芸双書 棉』、『なぜ木綿-綿製品の商品知識』のほか、『もめんのおいたち』(日本綿業振興会、2001年改訂版)などにも詳しく記されてて興味深いです。あわせてぜひご参照ください。写真はすべてH.A.M.A.木綿庵の圃場で撮影したものです。



アルボレウム(和綿)
インド、パキスタンの発祥と考えられ、アジア綿の中で中心となる品種です。戦国時代以降に日本に伝来し、全国各地で広く栽培されてきた綿の先祖にあたります。
繊維は太くて短い特徴があり、紡績には向かないことから布団の中綿用など、詰綿として用いられることが多い綿です。太くて短く、弾力性のある綿は詰綿としては何よりの魅力になります。日本ではこの綿を糸車などを用いて手で紡ぎ、機織りをして木綿布をつくってきました。
植物は栽培を繰り返す中でその土地の気候風土に適応しながらさまざまな特性を持つようになります。さらにそこに人間の手が加わり、それぞれの特徴を生かしながら品種改良が繰り返されてきました。それは和綿においても同様で、同じ和綿でも糸紡ぎに適している綿、詰綿に適している綿などが生まれ、評価されてきた歴史があります。
以下の写真は和綿の赤木種と青木種です。和綿はおおむね下を向いて花が咲き、下を向いて実がはじけます。花の色は黄色もしくはクリーム色。両種のおもな違いは枝の色と花の底紅の有無です。繊維の長さや質感にも微妙な差がありますが、質感を言葉で説明をするのは難しいです。



ヒルスツム(アップランド、洋綿)
メキシコが起源とされる綿花で、アメリカで品種改良されたものがアップランドです。現在、世界で栽培されている綿花の97%がこれに属するそうです。
※前掲『地域資源を活かす生活工芸双書 棉』11頁参照。
繊維の長さからは中繊維綿にあたります。
洋綿はおおむね上を向いて花が咲き、上を向いて実がはじけます。花の色は白色もしくは薄いクリーム色。蒴果(はじける前の実)は丸みを帯びているものが多いです。



バルバデンセ(洋綿)
ペルーが起源とされる綿花で、超長繊維綿のシーアイランドコットン、スーピマ、スビンなどはこれに属します。エジプト綿、スーダン綿などもバルバデンセの系統です。ただし、バルバデンセがすべて長繊維、超長繊維綿とも限らないそうです。
花はおおむね上を向いて咲き、上を向いて実がはじけます。花の色は黄色、もしくはクリーム色。蒴果は丸いもの、細いもの、先が尖っているものなど種類によっていろいろです。
ヒルスツムとバルバデンセは同じ新大陸生まれ(染色体は26本の四倍体)であるため、同じ畑で栽培するとすぐに交雑しますので要注意です。ただし、旧大陸生まれのアルボレウム(染色体は13本の二倍体)とは染色体数が異なるために交雑は生じないと言われています。


