わたのおはなし

綿の栽培

綿はもともと熱帯ないし亜熱帯の植物です。植物学的にはアオイ科に属します。同じアオイ科の木槿(むくげ)や芙蓉(ふよう)、野菜のオクラなどと花のイメージも大変よく煮ており、清楚で美しい花を咲かせます。国内での栽培適地は関東、東海、近畿地方以南とされてきましたが、近年では東北地方でもさかんに栽培されており、種々の条件や工夫によって栽培は全国各地で可能になってきているようです。

綿の花言葉は「優秀」、「崇高」、「繊細」、「有用」などです。
ここでは、各種文献を参考に奈良県天理市で16年間栽培をつづけてきた経験に基づいた、一般的な栽培方法について説明します。

同じ土地、同じ環境でも、畑が違えば土が変わります。それまで何を栽培していた畑であるか、田んぼであったか、遊休農地であったかによっても異なります。プランターか鉢植えか。そのプランターや植木鉢にどのような土を入れ、それをどこに置くかによっても条件は異なります。牛乳パックでも栽培が可能ですが、置く場所や、世話取りの仕方によって生長具合は異なります。ぜひ、みなさんも「私はこうして育ててみました」という観察記録を残してみてください。
なお、綿の栽培方法が記されている比較的新しい文献として『地域資源を活かす生活工芸双書 棉』(農文協、2019年刊)があります。おもに全国コットンサミットに関わる方々によって執筆、編集されていますので、とても参考になります。ぜひあわせてご参照ください。
【】内の記述は、木綿庵(以下、当方)が配付している「綿(ワタ・棉)の育て方-ワンポイントアドバイス-」からの引用です。

【植える場所、準備】
暑さと乾燥に強く、反対に低温と多湿には弱いので、地植えの場合は日当たりと風通しの良い場所を選ぶ。排水が良好であることも大切。鉢植えやプランター、牛乳パックでの栽培も可能で、容器の大きさに応じて生長するため、大きく育てたい時には大きめの鉢やプランターを用いると良い。土は粘土質よりも砂質壌土を好む。また、酸性土壌を嫌うので(弱アルカリ性が良い)、種まきの2週間前までには石灰をまいて中和しておくことが望ましい。元肥には鶏糞を施すと良いとも言われているが、やり過ぎに注意する。

01 播種(たねまき)

大和国(奈良県)では、八十八夜の頃に種を播くとよい、とされてきました。八十八夜とは立春から数えて八十八日目という意味で、5月2日前後にあたります。当方では、毎年5月3日に種を播く、と決めています。そして、それから少しずつ日をずらしながら5月末までにすべて播き終えるようにしています。実験的に6月初旬に播いたことがあります。たまたまかもしれませんが、その年はまったく問題ありませんでした。
種まきの時期:5月~6月初旬
前日から一晩、種子を水に浸けておくと発芽が早まります。ペットボトルに種子を入れ、ぎりぎりまで水を入れて蓋をしておきます。一晩とは何時間か?が気になるかと思いますが、12時間程度で良いと思います。水に浸けなくても発芽はしますので、時間はあまり気にしなくても大丈夫です。
種まきの準備:前日から一晩、種子を水に浸けておくと発芽が早まる
種を播くときは、深く埋めすぎないことが大切です。土の表面を手のひら等で軽く押さえて平らにします。種子を3粒置いて(一辺3㎝の正三角形のイメージ)、指でやさしく押さえます。その上から、ほんの少し土をふりかけるだけでOKです。その後、しっかり水やりをします。
種の播き方:深く埋めすぎないことが大切

【種蒔き:5月~6月初旬】
綿は好光性のため、種まきの際は、種を深く埋めないで、土を少し押さえてくぼみをつくり、くぼみに種を置き、その上から土を薄くふりかけるような感覚で播種すると良い。種を前日から一晩水に浸けておいて播くと2日~5日で発芽するものもある。水に浸けておかなくても2週間ほどでほぼ発芽する。発芽までは極端な乾燥に注意する。
播種時期は平均気温が15℃~20℃の頃が目安。近畿地方では4月下旬~5月が適期。当地では八十八夜前後が最適期と言われている。地植えの場合は幅70~90㎝くらいの畝に
60~80㎝間隔ぐらいに2,3粒ずつ蒔き、本葉が2、3枚となった頃に元気のいい株を1本残す。鉢植えの場合も2,3粒を播き、後は同様に間引きする。株間は20㎝ほどでも可。ポットを用いる場合は発芽後10日くらいまでに移植する。根が張ってから移植すると失敗することがある。

02 発芽

一晩水に浸けておいた種子であれば、早ければ2,3日で発芽します。水に浸けなくても、およそ2週間以内にはほぼ発芽します。たまに、2週間を過ぎてから発芽するものもあります。種子も生き物ですから、それぞれに性格があると思ってあげてください。せっかちさんタイプ、のんびり屋さんタイプもあるということで、良い悪いではありません。
種まきから発芽までの水やりは、「完全な乾燥状態が長く続かない程度」を目安に、一日に一度、もしくは2,3日に一度くらいでちょうどです。ポットや鉢植えの場合は一日に一度、地植えの場合は数日に一度でも大丈夫です。
水のやりすぎは種子の発芽力を弱らせてしまうことがありますので注意しましょう。
発芽日数:2日~2週間  水やり:乾燥とやり過ぎに注意
なお、地植えの場合はネキリムシに注意が必要です。発芽したばかりの双葉苗が、ハサミで切り取られたようになることがあります。ネキリムシの仕業です。また、鉢植えなどの場合は、ナメクジなどにも注意しましょう。

【肥料と水やり】
若葉の頃に草木灰をまいておくと肥料になると同時に虫除けにもなる。本葉が2,3枚となった頃に肥料(油粕、魚粉などの有機肥料や化成肥料等)を施すと良い。開花期に追肥することもある。ただし、やり過ぎには注意する。
発芽後15㎝~30㎝くらいまで生長すると、それ以降は生長が止まったように見える時期がしばらく続く。この期間は根が張る時期で、この時期に水をやり過ぎたり長梅雨にあうと根腐れをおこす。土が乾燥したら水をやる程度で良い。ただし、水が完全に切れると枯れたり生長が悪くなったりするので適度な水やりを心がける。綿は乾燥に強いが、とくに牛乳パックや鉢植え、プランター栽培の場合は注意が必要。

03 間引き、摘芯

本葉が出て、10㎝~15㎝くらいまで伸びてくると生長が安定してきます。間引きとは、元気の良い1本だけを残して、他は抜いてしまうことです。3本とも同じように元気であれば、抜いてしまうのがかわいそうで、そのままにしておきたくなりますが、経験上はやはり1本立ちにする方が良いように感じます。
間引きをしたタイミングで、追肥する場合もあります。
50㎝以上伸びてきた時点で、生長点(まっすぐ伸びている先端部)を切り取ります。これが摘芯で、芯止めとも呼びます。止めるタイミングは、側枝が6段から8段ほど出てきた頃で、60㎝、70㎝、80㎝くらいが目安になります。当方では摘芯をするのは和綿のみです。洋綿の摘芯はしたことがありません。
和綿は摘芯をしないで放任すると2、3メートルまで生長する場合もあります。洋綿は摘芯をしなくても160㎝ほどでほぼ止まります。
摘芯をする意味は、側枝(結果枝)を伸ばして収穫量を増やすことにあります。
できれば、この段階で株元に土寄せをして、しっかりと土を押さえておくと倒伏防止につながります。
摘芯をする位置は、次の側枝の直下が有効です。側枝6段で摘芯する場合は、7段目の直下でカットします。

【生長、摘芯】
5月に種を播いた綿は、7月上旬頃より急生長を始める。土寄せをして株元を安定させるか必要に応じて支柱を立て、ヒモで誘引する。和綿は50㎝~80㎝ほどまで伸びた段階で、摘芯(生長点を摘み取る)をおこなうと、葉の脇から多くの芽が出てボリューム感のある棉に育つ。摘芯をしないでもとくに問題はないが、条件によっては2mを超える(大きくなりすぎる)こともある。洋綿は摘芯をせずとも1m50㎝ほどでほぼおさまる。

04 開花

順調に生長した綿の木には、早ければ6月中旬頃より苞(ほう)と呼ばれる蕾がつきはじめます。江戸時代には「蝶」とも呼ばれていたようです。そして、7月初旬から中旬にかけて開花がはじまり、8月に開花最盛期を迎えます。
和綿は下向きに、洋綿は上向きに咲きます。
綿の花は白色ないしクリーム色が多く、夜明けとともに花が開きはじめ、午前9時をすぎる頃にかようやく開ききります。12時をすぎると少しずつ花びらが赤味を帯び始めます。夕方には薄赤色になり、翌日には赤い花となります。夏の綿畑で紅白の花を見ることが出来るのは初日の花と2日目の花が混在しているためです。なお、品種によっては花の色が変わらないもの(当方の和綿青木)もあります。また、最初から赤い花が咲く品種(洋綿の茶綿や緑綿)もあります。

【開花:7月~9月】
7月に入り急生長を始めた綿木には、気がつくと苞(蕾を包んでいる)が現れ、やがて美しい花を次々と咲かせ始める。白色ないし黄白色で、夕方から翌日にかけて薄ピンク色から紅色に変化する。1本の木に紅白の花が咲いているように見えるのはそのためである。花は2,3日でしぼんで落ちる。ただし、品種によっては紅色に変化しないものもある。開花、結実期には適度な水やりを心がける。この時期に水が切れると繊維の生長に影響する。

【病害虫】
発芽直後のネキリムシに注意する。また、開花前に葉を巻く害虫(ハマキムシ、メイガの類)やハダニ、アブラムシの類が発生することが多いので、防除する。市販の園芸用殺虫剤を散布すれば充分に駆除できるが、手で取り除けるのであればそれに越したことはない。害虫を見つけた場合は初期の対応が大切で、そのままにしておくと一気に広がったり、コットンボールに入り込み、ボールがはじけてもきれいな綿の実を収穫することができない場合がある。虫のついた葉を摘み取った場合は畑に放置せずに、袋等に入れて処分する。

開花最盛期は8月ですが、9月以降も花は次々と咲きつづけます。次第に花の大きさは小さくくなっていきますが、晩秋になっても、師走になっても花が咲く場合もあります。

05 結実

花が咲いた後の花の基部には、子房があり、その子房がすこしずつ膨らんできます。大きく膨らんでくると桃の形に似てくることから、江戸時代はこれを「桃」とも呼んでいました。これが蒴果(さくか)です。この緑の蒴果をコットンボールと呼ぶこともあります。

06 開絮(かいじょ)

蒴果がはじけて、中の白い繊維があふれでてくることを開絮と言います。江戸時代はこれを綿が「吹く」と表現しました。花と同じように、和綿は下向きに、洋綿は上向きに吹き、開花から開絮までの日数はおよそ40日~60日くらいです。
当方では毎年、8月中旬から開絮がはじまります。和綿と洋綿アプランドを比較すると、和綿の方が少し早く8月10日過ぎ、洋綿アプランドは8月20日過ぎが目安になります。ただし、品種によっては11月に入ってからようやく開絮がはじまるものもあります。洋綿の超長繊維綿は後者のタイプのようで開絮が晩い傾向にあります。心配しないで見守ってあげてください。
とはいえ、和綿、洋綿アプランド、洋綿超長繊維綿のいずれにおいても、最後まで開絮しない蒴果もあります。開きはじめても、途中で止まってしまう場合もあります。

二十四節気七十二候の第四十候に「綿柎開(わたのはなしべひらく)」があります。二十四節気「処暑」の初侯にあたり、柎(はなしべ)とは、萼(がく)のことです。「綿柎開」は、綿の実を包んでいた萼が開き始め、中から綿毛が出てくる頃という意味です。8月23日~27日頃にあたります。

【結実、開絮(かいじょ):8月下旬~10月】
開花後しばらくすると青い桃のような実が出来はじめ、次第にふくらんでいく。これが蒴果と呼ばれるものである。蒴果は開花後40日~60日ではじけ、中から白い繊維があふれ出す。この状態がいわゆるコットンボール(はじける前の緑の蒴果もコットンボールと呼ばれる)であり、摘み取ったものが綿花である。1つのコットンボールは3~5つの部屋に仕切られており、それぞれの部屋には4~8つ程の種が入っている。

07 収穫、綿摘み

開絮した綿は、日光を受けてさらに白い繊維が膨らんできます。これがいわゆるコットンボールです。ふっくらと膨らんだ状態のコットンボールから、順次、白い繊維部分のみを摘み取ります。これが綿摘みです。コットンボールは、3つ~5つの房に分かれていて、三房吹き(みふさふき)、四房吹き(よふさふき)などと呼びます。摘み取る時は、房ごとに摘み取る場合もあれば、一度にすべての房を摘み取ることもあります。また、コットンボールごと、ハサミで摘み取ることもあります。綿摘みの時に注意しなければならないのは、葉っぱなどのゴミが混ざらないようにすることです。葉ゴミがまじると、後の加工作業に支障が出てきます。
綿摘みは、よく晴れた日の午後にするのが良い、と言われます。綿は湿気を嫌うため、午前中に綿を摘むと露に濡れている場合があるからです。
また、雨にあてると繊維が劣化するため、できるだけ雨にあてないようにきれいに吹いた綿から順次摘み取っていきます。
当方では、例年9月中旬から10月初旬頃に収穫最盛期を迎えます。ただし、品種によっては11月初旬頃よりようやく開絮諸順位
摘み取った綿は、通気性の良いカゴなどに入れ、2,3日天日にあてて十分に乾燥させてから保管するようにします。ビニール袋などに入れて口を閉じるのは厳禁です。収穫直後の綿花に含まれる種子が水分を多分に吹くんでいますので、密閉性の高い容器に入れると必ず汗をかき(水滴がつき)、カビがはえる原因になります。
また、収穫直後の綿花には小さな虫が潜んでいる場合があり、知らない間に繁殖する場合もあります。収穫綿花を保管する場合は、無臭の防虫剤を入れておくだけで効果があります。

【綿摘み】
蒴果がはじけて白い繊維があふれ出てきたものから摘み取る。できれば天気の良い日を選んで収穫する。午前中は朝露に濡れている場合があるので、午後からが望ましい。摘み取らずそのままにしておくと汚れが付着し、雨露に濡れて固くなったり繊維が垂れ下がったり、地面に落ちてしまうので注意する。なお、ある程度まで蒴果が大きくなった時点で枝ごと切り取り、葉をすべて取り除き、蒴果についている萼も取って日当たりの良い軒先に立てて干しておくのも一つの方法。切り取った枝は水に浸けなくても、蒴果は高い確率で次々にはじけ出し、きれいなコットンブランチとして楽しむことができる。